昨日唐突に、野球解説で使われる変なコトバを書いたら無性に他にも書きたくなりました。
今日は「ツーシーム気味」という言葉です。
日本の野球文化はとても独特の進化をしてきており、「速球は変化をしない事=ストレートであること」が良いとされています。その文化的背景なのか何なのか知りませんが、外国人選手を見つけてはその速球を「綺麗な真っ直ぐではない」「外国人特有」と評する人が無数にいます。
これは良い意味では「(卑怯にも)ストレートを曲げてくる(から打てない)」、悪い意味では「ノビがないから数字ほど速く見えない」と言った具合で使われてます。
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日本人が動く速球を投げる場合は「癖球」といって褒められたりけなされたりしますが、これに少し差別的なニュアンスをつけたのが上記の言い方という事になります。
日本人と外国人の混血の子で日本で教育を受けて日本で野球を習ってきた人に対しても、見た目が外国人ぽいと判断された場合は「綺麗な真っ直ぐを投げない」とか勝手に決めつけて差別をされているときもあります。私の友達にも被害者がいました。(外国人のストレートがどうのこうのって、ヘイダーやデグロームのフォーシーム見てから言えよって思うよね)
さて、事前知識を入れたところで、今回取り上げる「ツーシーム気味」という言葉に戻ります。「ツーシーム」とは日本で言う「シュート」に最も近いボールです。正式には「ツーシーム・ファストボール」といいます。(なので、山崎康晃投手が投げるあの沈む半速球はツーシームではありません)
ところでそもそも「ツーシーム」とはどういう意味かというと、「回転軸に平行な縫い目がボール1回転あたり2回横切る回転軸で投じられた速球」のことです。
日本で言う「ストレート」は本場では単に「ファストボール」、もう少し「ストレート」に近い言い方をすると「フォーシーム(・ファストボール)」と呼ばれています。「回転軸に平行な縫い目がボール1回転あたり4回横切る回転軸で投じられた速球」です。
フォーシームを、サイドスローやスリークォーターで手首を立てずに投げたとしましょう。これ、ボールの軌道だけ見たら「シュート」になります(まぁオーバースローでもほぼ全員の選手のフォーシームは真っ直ぐではなくシュートの軌道です)。本人がストレートを投げるつもりでシュート軌道になる「シュート回転」というのも同じで、「日本式の言い方」で言うと意味不明になりますが「軌道がシュートのストレート」です(本当は日本ではこれをナチュラルシュートと呼びます)。一部で悪いことだとされていますが、これ自体には本来良いも悪いもないんです。ただ一つだけ言えるのは、この球は「シュート」であり、かつ「フォーシーム」です。
これを指して、このようにシュート軌道でくる球の事を最近は一部の野球解説者が「ツーシーム気味」と意味不明に言い表すのです。何が間違っているか、もうお解りでしょう。
日本では元々はボールの軌道を指して「ストレート」「シュート」と呼んでいます。アメリカではこれらの球種は速球と分類した後に回転軸で名前を決めているわけですね。その命名の経緯を知らない人がシュート軌道のフォーシームを「ツーシーム気味」とか言ってしまう。
ちなみに「シュート」と呼んで「ツーシーム」を投げることは別に間違いではありません(パワプロのシュートみたいに真横に変化しなくても、です)。この場合のツーシーム回転軸のシュートを「ツーシーム気味」と表現する解説者もいますが、これは(偶然にも)正しいです。「気味」は要らないですけどね。ツーシームではない球はツーシーム気味たりえないから。
野球解説って、引退した選手が仕事貰うためだけじゃなくて、放送されてる試合の解説するためにきてるんですからね。ちょっとくらい事情を勉強したらいいのにな、と思う次第であります。
広義に彼らの言う「ツーシーム気味」が含む意味を全部拾うのならば、「速球がナチュラルに変化する」って言えばいいんですよ。でも、こんな指摘したら元・偉大な選手である解説者は怒るんだろうなぁ…